これは2022年の年末に行われたエモクロアTRPG『COIN』のセッションを記録したリプレイ小説です。
当然のことながらシナリオ本編のネタバレがあります。
まだシナリオを知らない方や、これから遊ぶ予定の方は画面を閉じるなどの対処をお願いいたします。
タイトルの表記以降はネタバレの範囲になりますので、スクロールにはご注意ください。
二次創作は歓迎しておりますので、遠慮なくどうぞ。
はじめに
この物語はフィクションです。
物語内で登場する人物や組織などはあくまでもフィクションとして楽しむことを前提として設定されたものであり、実在する・もしくは歴史上のすべての人物・団体・事件等とは一切関係はありません。
また特定の思想・心情・宗教などを擁護、あるいは非難する目的を持って制作されたものではありません。
秘匿ハンドアウトについて
本秘匿ハンドアウトに「必ず秘匿しなければならない」という拘束力はありません。逆に
「必ず公開しなければならない」という拘束力もありません。
秘匿の内容を相手PLに公開するタイミングは各PLが自由に判断して構いません。
極端に言ってしまえば、「開始早々に公開するタイミングだとPLが判断したのであれば公開しても構わない」ということです。
あくまで「人間生きていればお互いが知り得ない情報(秘密や過去)を持っていたり、
わざわざ他人に言うほどでもないと思っていることがあったりする」ということを強調するためのフレーバーとして認識していただければと思います。
参加者
PL:take
- HO2|あなたは優しい
- 名前|小宮山 健
- 年齢|25歳
- 階級|巡査
- 共鳴感情|表:奉仕(関係)|裏:希望(理想)|ルーツ:正義(理想)
DL:da-ya
進行役。シナリオ書いた人。
エモクロアTRPGCOIN
Two Side of the Same COIN.
───我々は皆、同じものを見ている。
HO1導入:石川 虎衛門
(※)以下の情報はHO1の秘匿内容です。
幼少期・悪夢
薄暗い部屋の中。
あなたは狭くて暗い押し入れの中、声を必死に押し殺して隠れている。
母の叫び声。
父の呻き声。
何かの割れる音。
鈍い音。
そして───しばらくの静寂。
ふと、押し入れの隙間から入る明かりに、ちらりと影が差した。
母だろうか。
不安になったあなたは、隙間から外を覗いてしまう。
そこに広がるのは、地獄だった。
床に倒れた父と母。
赤く染まる床。
傍らに立つ、見知らぬ人影。
かすかに身じろぐ父。
その頭上へと、振り下ろされる鈍器。
鈍い音。
飛び散る赤。
ふと、突然男が振り返る。
そして、あなたと目が合った。
目覚め
ガタガタと窓を打つ風の音に、目が覚めた。
じっとりと汗をかいているのが分かる。
外は雨。たまに吹く強い風に窓が唸る。
いつもの悪夢だ。
両親を殺された日の夢。 何度も何度も見る、忘れられない光景だった。
あの後のことは覚えていない。
あの押し入れに隠れていた時のことも、あまり鮮明に覚えてはいない。
母に言い付けられた「ここに隠れて、決して声を出さないように」という約束を、あの日の幼い自分はただただ守ろうと必死だった。それしか覚えていなかった。
気が付けば次に自分がいたのは病院のベッドの上だった。
両親の遺体は発見されなかった
遺体が見つからないこともあり、両親は失踪扱いとなり、真実は闇に葬られた。
幼いあなたの言葉など、大人は誰も信じてくれなかった。
しかし、あなただけは知っていた。
あの日、自分の両親は殺されたのだ、と。 あの男が殺したのだと。
そして数十年が経った今でも、あなたはその男を追っている。
手がかりは、あの日の記憶だけ。 それでも、あなたは信じていた。
きっと、あの男に再び逢えば自分なら分かるはずだ、と。
DL:以上がHO1の導入です。何かこの時点で聞いておきたいことはありますか?
石川:“男”ってことは分かって大丈夫ですか?
DL:大丈夫です。
石川:はい。
HO2導入:小宮山 健
(※)以下の情報はHO2の秘匿内容です。
幼少期・病院にて
幼い頃、あなたはベッドから動くことが許されなかった。 同年代の子供たちは、皆外で遊んでいるのに。 あなたはそれを、子供心にいつも悔しく、そして寂しく思っていた。
それもそのはず。 あなたは生まれつき重大な病を抱えていた。
両親はとにかく優しかった。だが、あなたに一つの自由を与えることもなかった。
常にそばで見守り、欲しいものは全て与えられた。だが、少しでも自分で動こうとしようものなら止められた。あなたに選択肢を与えてくれることもなかった。
勿論、それに反発したこともあった。
自分も外で遊びたい、とわがままを言った。
けれど、最終的には泣きながら謝る両親の姿があまりにも痛ましく、次第にあなたは何も自分の意思を伝えることはなくなった。
いつまでこんな風に過ごせばいいのだろう?
そう思っていた矢先だった。
ついに自分の病気に効果のある薬ができたと聞かされた。
そうしてしばらくの投薬治療の結果、病気は無事に完治した。
両親は大層喜んでいた。
あなた自身もついに“普通”という自由を手に入れた。
退院の日。
担当してくれた医師や看護師に見送られながら、あなたは病院を後にした。
見送りには、いつもは見ない顔の人もいた。その人も白衣を着ていたため、きっとこの病院の他の医師だったのだろう。その人は、元気そうなあなたの姿を見て、小さく微笑んでいた。
みんなも「良かったね。おめでとう」と言ってあなたを送り出してくれた。
あの日、たくさんの人々に祝福されながら、あなたの時間はやっと動き始めたのだ。
目覚め
けたたましい着信の音に目を覚ます。
「事件だ。」
短く用件と場所だけを伝えられ、通話は切られる。 窓の外を見ると、冷たく雨が地面を打ち付けていた。
久々に、幼少期の夢を見た。
どれだけ自分が頑張ろうと、日々事件は起きているし、どこかで誰かが苦しんでいる。
それでも、あの時自分を救ってくれたたくさんの人たちのように、自分にも救える命があるならばと、今日もあなたは現場へと急行するのだった。
DL:以上がHO2の導入になります。
小宮山:かしこまりましたー。なんか知ってたはずだけど、改めてこうやって言われると怪しい匂いがプンプンするぜ。
DL:今、この時点で何か質問があれば、聞いておきますけれども。
小宮山:えーと…両親は未だに健在ということでいいんですか?
DL:はい、大丈夫です。
小宮山:で、今は普通に一人暮らしってことでいいんですよね。
DL:はい、大丈夫です。一人暮らしでも実家暮らしでもどちらでも構いません。
小宮山:はい、かしこまりました。今はもう健康で通院とかもしてないんですよね?
DL:そうですね。もう本当に健康体の状態になってます。
小宮山:はい、かしこまりました!
Day.1発端
火災現場
U県内真白市、市内某所。時刻は朝7:00頃。天気は雨。
人目のつきにくい廃工場の一角に設置された倉庫の中。焼け焦げた室内は水でびしょびしょに濡れており、消火活動が行われてからそれほど時間が経っていないことが分かった。
遺体が転がっていた位置には見慣れた白いチョーク線が、その形をかたどるように引かれている。
1時間前。自宅で休んでいた二人のもとに、上司から連絡があった。港付近の廃工場跡で火災が発生。消火後に遺体が発見された、と。
その出動命令を受け、二人は大急ぎで現場に急行した。
石川:石川到着しました。
小宮山:すみません、遅れました。小宮山です。
石川:どうなってますか?
DL:では、現場に入ってきたあなたたちの姿に、一人の女性刑事が気が付きました。彼女はあなたたちと同じU県警の捜査一課の刑事「藤宮 マコ」。巡査部長です。少なくとも一年以上は一緒に仕事をしてきた仲間だと思ってください。
藤宮:お疲れ様です!
DL:と元気よく声をかけてきます。
石川:うん、どうなってる?
藤宮:あ、えっとですね…。
DL:そう言ってマコがあなたたちの方に駆け寄って来るんですが、
藤宮:わあっ…!!
DL:と言って盛大に転倒します。
石川:…どうなってる…?
小宮山:マコさん、だいじょうぶですか?!
藤宮:ああ…大丈夫!ちょっと服は汚れちゃったけど…。
石川:…現場荒らすなよ。
小宮山:もし良かったら使ってください、と言ってハンカチを渡します。
藤宮:あ、ありがとう…。あ、すぐ概要説明しますね!ご遺体はすでに科捜研(※1)に送ってます。幾つか私の方で調べておいたので、何か気になることがあれば私に聞いてください。
(※1)現実では科捜研で遺体の司法解剖を行うことはなく、遺体は大学の法医学教室などに送られる。ただシナリオの都合上、必要のない描写は割愛しているため、このU県警では科捜研と法医学教室が隣接した施設だとして、総じて「科捜研」と呼ばれているとしている。
(ここでDLから捜査についてのチュートリアルが開始されるが本リプレイでは割愛する)
石川:とりあえず話を聞かせてもらおうか。
藤宮:はい。えーと、遺体の身元は不明です。死因もまだハッキリしていません。詳しく調べるためにすでに科捜研に送っています。遺体は本日未明、この廃工場から火の手が上がっているとの通報を受け、急いで消防隊が消化活動を行ったところを発見されました。火が消されたのが午前5時頃。遺体が発見されたのもそのくらいの時刻です。
石川:ふむ。
藤宮:出火原因なんですけど、遺体…もしくは遺体の周辺に大量の灯油などをかけて火を点けたのではないかと思われます。遺体の側に百円ライターの残骸のようなものも発見されましたが、焼けてしまっていて指紋などは見つかりませんでした。遺体発見の経緯としては、火事の目撃者がいました。近くの港に船を停留していた漁師の男性です。市内は昨日から、この通り雨の勢いが強かったため、船の様子が心配になって確認しに来たところ、建物から上がる火の手に気付き急いで119番通報したということでした。男性はすでにこの建物が廃工場だということを知っていたため、火の手が上がっているのはおかしいと思い、すぐに通報に至ったそうです。
石川:死因が分からないと言っていたが…仏さん、真っ黒になっていたんじゃないのか。
藤宮:真っ黒にはなっていたんですけど、その…。
石川:まあ、詳しいことは科捜研でないと、ということか。
藤宮:そうです。遺体遺棄の可能性もあると思いますので。
石川:小宮山は何か聞いておきたいことはあるか。
小宮山:この廃工場って、元々は誰の持ち物かとか分かっているんですか?
藤宮:もうすでに廃業して数年が経過しているので、今は誰の持ち物というわけでもないみたい。
小宮山:なるほど。
石川:じゃあ倉庫内を見るぞ。
小宮山:はい。
DL:では、倉庫内を見ると遺体付近が出火場所なのだろうと分かるでしょう。他の場所よりも焦げ跡が強く残っています。廃工場がまだ運営されていた頃は、材木の切り出しなども行っていたようで、事件当時倉庫内にはまだ多くの材木が残されていたようです。とはいえ昨夜は天候が悪かったので、この倉庫全体が燃えるような火力で自然に発火するとは思えません。まず間違いなく放火だろうと確信するでしょう。
石川:〈洞察〉失敗
小宮山:〈観察眼〉ダブル
DL:では材木以外にも何かが燃え残ったのか、小さな炭の中から白い粉の塊のようなものを発見しました。
小宮山:石川さん。これ見てください。
石川:なんだ。
小宮山:この粉、なんでしょうね。燃え残った煤の中から出てきました。
石川:ああ…これも科捜研に回しておくか。
小宮山:そうですね。じゃあ証拠品袋に入れて持っていきます。マコさん、ちょっといいですか。
藤宮:はい。
小宮山:ここって施錠とかは普段は緩い感じだったんですか?
藤宮:多分、そうだったんじゃないかな…。
小宮山:まぁ、入ろうと思えば誰でも入れた?
藤宮:しっかり施錠はされていたかもしれないんだけど、誰も人が来ない状況だったから、窓を割って入ってくることもできたんじゃないかな。
小宮山:なるほど。
石川:…外も見るか。
小宮山:そうしましょう。
DL:では、倉庫の周辺は街灯もなく人気もほとんどないため事件当時はもっと視界が悪かっただろうと想像できます。雨のせいか手がかりが全く残っておらず、ここから証拠を見つけ出すのは難しいということが分かります。
石川:…ふむ。何の目的で、遺体がここに来たか、だな。
小宮山:そうですね。殺してから燃やしたのか、燃やして殺したのか。
石川:…うむ。
藤宮:それについて私の考えを言っても?
石川:勿論。
藤宮:殺しなのかどうかまだハッキリはしてないんですけど、私としては自殺の可能性も捨てきれないんじゃないかって気はしてます。
石川:そうだな。
小宮山:それはなぜ?
藤宮:まぁ、自殺の可能性が排除できないってだけなんだけど。
小宮山:ああ。
藤宮:何にせよ事件性はあると思ってます。
石川:まあ粉が見つかったくらいだからな。
藤宮:何ですか、その粉?
小宮山:ちょっと分からないんです。燃え残った材木の影に隠れてて。使ってない工場なのにこんな粉があるのも変かなって。
藤宮:科捜研に回して成分分析してもらおうか。
小宮山:そう思って回収しておきました。後で出そうと思います。石川さん、ちょっと思ったんですけど。
石川:なんだ。
小宮山:もし仮に被害者が自殺だった場合ですよ。灯油を持ってくる手段が必要になりますよね…車とか。
石川:ああ。
小宮山:でもこの辺りにそんな車はないですよね。
石川:まあ誰かが持ち込んでかけた可能性が高いかもな。
小宮山:もし自殺だとするなら、自分でポリタンクなんかを持ってきて、わざわざここで自殺したってことになりますよね。
石川:ああ。
小宮山:分かりました。ありがとうございます。
藤宮:そろそろ科捜研で検死の結果が出てると思うので、一旦署に戻りませんか?
石川:行こう。
小宮山:はい。
科捜研
人員が他県へ応援に出ていることもあり、署内はいつもに比べ少し慌ただしい。
ひとまず3人は、まっすぐ目的の科捜研へと向かうこととなる。
科捜研に向かうと科捜研研究員の「小野原 一葉」が出迎えてくれた。
小野原:やあ、天気も悪いのに朝早くからご苦労様。
石川・小宮山:お疲れ様です。
小野原:こっちもバタバタしてるけどそっちも大変そうだね。朝早くから駆り出されて。
石川:火事ですから。
小宮山:事件があれば。
小野原:そっか。ああ、大丈夫。ご遺体についてはちゃんと調べてるよ。
DL:そう言って、挨拶もそこそこに小野原は検死の結果を伝えてくれます。
小野原:まずご遺体の身元だけど、歯に虫歯の治療痕があった。そこから市内の歯科医院を中心に治療記録と照合した結果、身元を特定することができた。被害者の氏名は「井本 雅和」、33歳。商社で働いていたみたい。母親から捜索願いが出ていたんだけど、今まで見つからなかったみたいだね。診察記録にある住所はすでに引き払われてから1ヶ月以上は経っているから、遺留品などは実家のご家族が回収してるかもね。
石川:なるほど。
小野原:ご遺体の状態なんだけど、胃の内容物が見当たらなかったから死亡推定時刻を割り出すことは非常に難しい状態だ。まあただどうにか焼けずに残った組織を見るに、少なくとも死後1ヶ月以上は経過しているように僕には思えたかな。
石川:1ヶ月もどこかに保管していて、わざわざこの日に燃やしたと?
小野原:まあそれが一番濃厚だろうけど…ただこれはあくまで採取した組織の腐敗具合から判断した結果だから、確実に1ヶ月経っているとは言えないかな。
石川:なるほど。
小宮山:直接的な死因は分かりましたか?
小野原:ああ死因ね。火は死亡後に点けられたと思われるから、焼死って可能性は低いね。ただ死因となるような外傷という外傷も見当たらなかった。病死とかだったのかもしれない。いずれにせよ詳しい死因は分からなかったね。
石川:ふむ。
小野原:まあ実際に見てみることも必要だろうから。
DL:そう言って、小野原は遺体にかけられていたカバーを取ります。そこには真っ黒に焼け焦げた遺体がありました。
石川:…随分念入りに焼けてるな。
藤宮:確かに…現場でも思いましたが、綺麗に丸焦げですね。
小宮山:…。
DL:では遺体をまじまじと見つめていたあなたたちは、その遺体から突然声がしたような気がしました。共鳴判定です。
石川:〈共鳴判定〉失敗
小宮山:〈共鳴判定〉失敗
藤宮:シークレットダイス
DL:成功失敗に関わらず「声がした」とは思うでしょう。
藤宮:先輩…今何か喋りました?声がしたような…。
石川:…喋ってない。
藤宮:え?じゃあ小宮山くん?
小宮山:でも僕も何か聞こえたような気がしました。
藤宮:そう、だよね。まあ、誰かが向こうで話してた声が聞こえただけ、とかだよね。
小宮山:そうですよ。そんな、ご遺体が喋るとかそんなわけ…ははは。
小野原:?
DL:小野原は特に何も聞こえなかったようです。
小野原:とりあえず僕の方で調べられることはこれくらいかな。君たちがこれから捜査で手に入れた証拠品とかがあれば、僕のところに持ってきてくれたら調べるから。
石川:ああ。
小宮山:それじゃあ小野原さん、早速一ついいですか。
小野原:はいはい。
小宮山:これ現場に落ちてた謎の白い粉なんですけど。これが何か調べていただいてもいいですか?
小野原:何だろうね、この粉。ちょっと調べてみるよ。
小宮山:また分かったら教えてください。
小野原:そうだね。君たちが戻ってくる頃には何かしら報告ができるように調べさせてもらうよ。
小宮山:よろしくお願いします。
石川:じゃあ被害者の家、訪ねるか。
小宮山:そうですね。
藤宮:分かりました。
被害者:井本 雅和の実家
被害者である井本の実家へと訪れた一行を、井本の母親が出迎える。
しかし、井本の母親は捜索願いを出していたにも関わらず、息子が遺体で発見されたということに非常に心を痛めていた。
井本の母親:今更…なんのご用ですか…。
石川:犯人捜査のため、ご協力いただけますか。
井本の母親:犯人捜査のため…?息子は殺されたんですか?
石川:ええ、その可能性が非常に高いです。
井本の母親:そんな…息子は誰かに殺されるような子じゃ…。あなたたち警察がしっかり捜査してくれなかったから、こんなことになったのでは?!
石川:そうかもしれません。ですから、今できることをこちらでいたしますので。ご協力いただけませんか。
井本の母親:…分かりました。協力はします。けれど、どうして息子がこんなことになってしまったのか…。きちんと調べてください。
石川:勿論です。
DL:では井本の母親は深い溜息を吐いた後、数点の井本の遺留品(貴重品・スマートフォン・薬袋)を提出してくれます。
小宮山:井本さんが行方不明になられたのは、いつ頃からだと認識されていますか?
井本の母親:ここ数年息子は年末年始くらいにしか帰ってきてなかったのですが、3ヶ月前くらいでしょうか。息子の職場の方から「出勤していない」と連絡がありまして…。その時はまあ…息子も良い大人ですから、何かしら理由があるのだろうと思って気にも留めなかったんですが…。でも1ヶ月前にマンションの管理会社の方から「家賃が2ヶ月分支払われていない」と連絡がありまして…。そこではじめて息子に何かがあったのかもしれないと気付いて、慌てて捜索願いを出しました。
小宮山:なるほど。捜索願いを出したのが1ヶ月前でしたが、3ヶ月前くらいから連絡は取れなくなっていた、と。
井本の母親:そうですね…。息子からは仕事も順調だと聞いていたので、自殺とか、誰かに恨まれたりとか、そんなことはないと思います。
小宮山:そうですか…。石川さん、何かお母様に聞いておきたいことはありますか?
石川:いや、まずはいただいた遺留品から調べてみよう。
小宮山:分かりました。
石川:スマホを見ます。
DL:スマートフォンは電源が入らないようです。充電しようとしても充電のランプがつきません。
石川:お母さん。このスマートフォンは雅和さんのものですか。
井本の母親:はい、そうだと思います。マンションの退去命令が出た際、手続きや部屋の整理をしたのも私なんですが、その時部屋にあったものを持ってきています。
石川:つまりこの貴重品もスマートフォンも薬袋も持ち歩かずに、どこかに行ってしまった?
井本の母親:そうみたいです。
石川:ふむ。
井本の母親:あ、ただ貴重品の中に財布はなかったように思います。なので財布だけを持ってどこかに出掛けていたのかもしれません。
石川:雅和さんは何か持病がおありで?
井本の母親:いえ、そんな風には聞いておりませんし、健康そのものでしたよ。
石川:ふむ。じゃあこの薬袋も科捜研に回そう。
小宮山:はい。
DL:では、薬袋には「神崎総合病院」と病院名が書かれていました。この神崎総合病院はこの市にある大きな総合病院で、あなたたちの健康診断もこの病院で行われているため、よく知っている病院です。
小宮山:病院に行けば何かわかるかもしれませんね。
石川:そうだな。貴重品には何が入っている?
DL:貴重品には先ほど母親が言った通り、残された貴重品の中に通帳や印鑑、メインで使用されていなかったカード類は見られるのですが、財布は見当たりません。
小宮山:通帳の残高におかしなところはありますか?お金に困ってるとか、明らかに多額の金額が移動しているとか。
DL:特にありません。
小宮山:少なくともこれだけで何か犯罪に巻き込まれるような、そういうものは見えませんね。
石川:スマホが起動できないのが理由があるのか、調べる必要があるな。
小宮山:バッテリーがいかれてるのか、中の基盤がやられてるのか…。これも専門家に見てもらえればデータの復旧ができるかもしれません。
石川:そうか。
小宮山:科捜研に一緒に出しておきます。
石川:なんでも科捜研で大丈夫なのか(笑)
小宮山:科捜研はだいたいなんでもできると思っています!(笑)
石川:そうなのか?
藤宮:私もそう思ってます!
石川:そうか(笑)じゃあ、まあ…お母さん
井本の母親:はい。
石川:我々にもできることとできないことがありますが、最善を尽くします。それは、お約束いたします。
井本の母親:…よろしくお願いいたします。このままだと毎日息子に手を合わせるたび、もう少し早く私が気付いていればと思えて仕方ないんですよ…。
石川:会社の方にも聞いてみますので。
井本の母親:…よろしくお願いいたします。
石川:何かあるか小宮山。
小宮山:いえ、大丈夫です。ご協力感謝します。
石川:じゃあ病院に行くか、会社に行くか。どっちからにする?
小宮山:病院の方が僕たちの健康診断もやってますし、顔見知りの医者がいるでしょうから、そちらの方が情報が出やすいかもしれませんね。
石川:まあどっちも行くんだけどな(笑)
小宮山:まあそうですね(笑)
石川:じゃあ病院に行くか。
神崎総合病院
神崎総合病院はこの市で一番大きな総合病院だ。
ここでは病院長の「神崎 恭介」が石川たちの対応にあたってくれるようだ。
神崎:病院長の神崎です。それと、井本さんの担当医です。
石川:そうですか。井本さんですがご遺体で発見されましてね。こちらの薬袋をお持ちだったものですから。一体どういった診断をされていたのか、カルテの内容を詳しくお話いただけますか。
神崎:確かに半年前くらいから頻繁に通院されていましたが。正直なところ病気の原因はハッキリしていないんですよ。
石川:はあ。
神崎:とにかくきちんと検査入院をした方が良いと私どももお伝えしていたんですけど、ご本人が仕事が忙しいからと受ける気がなかったようで。
小宮山:症状としてはどのようなものだったんですか?
神崎:気分が悪い・吐き気があると仰っていましたよ。なので吐き気どめと、抗生物質を処方しておりました。
石川:なるほど。じゃあこの薬袋の中身も?
神崎:ええ、その2つだと思いますが。中の確認はされましたか?
小宮山:いえ、まだ。石川さん科捜研に回す前ですけど、開けて見てもいいですか?
石川:ああ。
小宮山:では確認します。
DL:では中を確認すると、3種類の薬が入っていることが分かります。
小宮山:ん?先生、先ほどは吐き気どめと抗生物質の2つだと仰っていたと思うんですけど、こちらにはもうひとつ入っているようですが。この3つを処方されていたんですか?
神崎:3つ?
小宮山:ええ、ほら。
神崎:…その薬は何ですか?うちで処方しているものではなさそうですね。どこか他所の医院で処方されたものでは?
石川:この薬が何か分かりますか?
神崎:いえ、さすがにラベルに何も銘がない薬は分かりませんね。
石川:そうですか。
神崎:すみません。次の診察がありますので、そろそろ失礼させていただきますね。
石川:はい。ありがとうございました。
小宮山:ありがとうございました。
藤宮:…なんか結構ツンツンした人でしたね。
石川:医者なんてそんなもんだろ。
小宮山:本当ですか?
藤宮:石川さんもあんまり人のこと言えない気が…。
石川:刑事なんてそんなもんだろ。
藤宮:えー?
小宮山:僕はもうちょっと…いや、でも石川さんの方が刑事っぽいか…。
藤宮:小宮山くんだって刑事でしょ。私だって刑事だよ。
小宮山:いや僕はなんかもうちょっとヘラヘラしてるっていうか…まあそんなことはいいんですよ。井本さんのカルテも調べさせてもらいましょう。
DL:ではカルテを見ると、先ほど神崎が言っていた通り何の病気だったのかハッキリと明記されていません。処方された薬についても記載されていましたが、やはり3つ目の薬については何も書かれていません。カルテの日付は3ヶ月前で途切れています。
石川:〈観察眼〉成功
小宮山:〈観察眼〉成功
DL:カルテの紙に何かしらの筆圧でできた跡が残っていることに気付きます。このカルテの上で何かを書いた跡のようです。手持ちの鉛筆と紙で文字を浮き上がらせると、以下のように書かれていることが分かりました。
B-3-128
小宮山:「B-3-128」…何ですかね、これ。
石川:ふむ。
藤宮:何ですかね…。
石川:これは仮定の話だが…この3つ目の薬を指示している可能性…。いや分からんな。ここで聞いても無駄だろうしな。
小宮山:そうですね。先生も、あの感じだとこれ以上突っついても何も出なさそうですし。
石川:他、周りを固めてからだ。
小宮山:そうですね。いずれにしてもこの3つ目の薬は科捜研に確認してもらいましょう。
石川:じゃあ会社の方に行くか。
小宮山:はい。
大澤商事
被害者である井本の勤め先。 ここでは井本の上司や井本の同僚から、失踪直前の井本について話を聞くことができる。しかし井本のデスクはすでに片付けられており、私物などはすでに何も残されていないようだ。 一行は受付に要件を伝えると、井本の上司を名乗る男性に会議室へと案内された。
石川:井本さんがこちらに勤めていらっしゃったということで間違いないですか。
井本の上司:はい、そうです。まさか刑事さんにお話しするようなことがあるとは思ってませんでしたが…。
石川:ああ、ちょっとしたお話を聞きたいだけですから。ご心配なく。
井本の上司:それで、本日はどのような…?
石川:3ヶ月前から連絡がつかなくなったということですが?
井本の上司:そうなんですよ。会社には3ヶ月ほど前から無断欠勤をするようになって。それまでは、仕事熱心で問題を起こすこともなかったんですけど。まあずっと連絡もなかったので、先月契約違反ということで強制解雇になりましたね。
石川:なにか3ヶ月前、無断欠勤する前に変わったことはありましたか?
井本の上司:そうですね…。無断欠勤する数ヶ月前から体調が悪いと言っていましたね。病院に行ってから出勤することも多かったみたいです。
石川:なるほど。
小宮山:それについて原因などは?
井本の上司:いやあ、ちょっと原因までは分かりませんが…。でも見るからに顔色も悪かったし、悪化するようなら検査入院をするように部署内でも伝えていたんですけどね。でも井本って結構仕事人間だったので、検査の時間を作ってるような感じはしませんでしたね。
小宮山:何か恨みを買うとか、何かトラブルに巻き込まれているとか。そういったことはありませんでしたか?
井本の上司:そういったプライベートなことは私の方ではあまり聞いていませんでしたから…。もし聞いているとしたら彼の同僚とかでしょうか。良かったら呼んで来ますが。
石川・小宮山:お願いします。
井本の同僚:お待たせしました。井本について聞きたいことがあると聞いて来たんですが。
石川:そうです。
小宮山:井本さんは何か恨みを買うとか、何かトラブルに巻き込まれているとか。そういった様子は感じられませんでしたか?
井本の同僚:うーん、人当たりも良くて仕事もできる人間だったんで、そういった揉めるようなタイプではなかったと思います。ただ無断欠勤前の…昼休憩だったかな。井本が社内の使われていない会議室で隠れるみたいに誰かと電話していたみたいで。その時結構興奮していたというか…声も荒げていて。だから会社外では何か揉めていたのかもしれないですね。
小宮山:何を話していたかまでは覚えていらっしゃらないですよね。
井本の同僚:いやあ、さすがに他人の電話をまじまじ盗み聞きするわけにもいきませんから。
小宮山:そうですよね。
井本の同僚:まあ僕たちも体調悪いことは結構心配していたんで、アパートまで様子を見に行ったりもしたんですけど。部屋から出てくる様子もないし、連絡もないし。そうこうしてたら解雇になっちゃって…かなり心配はしてました。
石川:分かりました。ありがとうございます。
井本の同僚:いえ、ご協力できたのなら。
石川:ええ、充分に。
井本の同僚:では失礼します。
石川:スマホが使えれば何か分かりそうだな。
藤宮:そうですね。誰かと通話してたみたいですし。この辺りで一旦署に戻りませんか?
石川:うむ。
小宮山:そうですね。
最後の足取り
被署に戻って来ると、それぞれ自分のデスクの上にA4サイズの封筒が置かれていることに気が付く。どうやら健康診断の結果のようだ。封筒には神崎総合病院と病院名がプリントされている。
石川:あまり見たくないな。
小宮山:ああ、先日の健康診断の結果ですね。石川さんご自身の健康状態はどうなんですか?
石川:自覚はないが、あまり見たくはない。
小宮山:しっかり確認しないとダメですよ。刑事は身体が資本ですから。
石川:お前は若いからそう言ってられるんだ。
小宮山:いやあ、僕、昔身体弱かったんで。こういうのすぐちゃんと見るんですよ。健康じゃないとダメですよ、やっぱり。
石川:そうなのか。まぁ健康に越したことはないが。
小宮山:確認しますけど、変なところとかありますか?
DL:いえ、お二人とも特に問題はありません。マコも自分の結果を確認しています。
小宮山:ほら、健康です。
石川:良かったな。
小宮山:石川さんも健康そうで良かったです。
石川:…今のうちはな。
藤宮:何でそんな(笑)まだ若いですって!
小宮山:またツンツンしちゃって。
石川:…さて、科捜研行くか。
小宮山:そうですね。
小野原:ああ、ちょうど良かった。
小宮山:何か分かりましたか?
小野原:実は被害者が3ヶ月前に残した最後の足取りが見つかってね。
石川:…ほお。
小野原:駅の防犯カメラに映像が残っていたんだ。恐らくこれが最後の足取りだろう。この日、井本が駅に来たのは夜20:00頃。真白駅には東口と西口の入口それぞれと、切符売り場・改札付近、あとは乗り口のあたりにカメラが設置されてるんだけど、駅から電車に乗る姿は乗り口の防犯カメラに映っていない。多分、駅の中のどこかに用があったんじゃないかな。実際に東口の防犯カメラには手ぶらで駅内に入っていく姿が映ってるけど、西口から出ていく際には何か小さな紙袋みたいなものを持ってる。
石川:受け渡しか何かか?
小野原:そうだね。誰かに会ったのかもしれない。買い物でもしたのかと思ったんだけど、それにしては駅を出るまでに5分も経っていないのが不自然だからね。
小宮山:誰かと何かを受け渡ししたってことか。
DL:ではここで〈*調査〉,〈洞察〉,〈直感〉,〈観察眼〉のいずれかで判定ができます。
石川:〈観察眼〉ダブル
小宮山:〈観察眼〉成功
DL:ではその小野原の話を聞いたあなたたちは、先ほど発見した「B-3-128」が駅のロッカー番号ではないかと思い当たります。
石川:…。
小宮山:石川さん、もしかしてこの数字…。
石川:ロッカー番号…。手渡しと言えばロッカーだな。
藤宮:え、本当ですか?じゃあ私鑑識に声をかけて調べてもらいますね。今から向かわせておけば、明日には何か分かるかもしれませんし。
石川:ああ、頼む。
小宮山:そういえば、粉の方はどうでした?
小野原:ああそれなんだけど、そっちはまだ成分分析が完了していないんだ。明日には何かしら報告できると思う。
石川:分かった。
小野原:そっちは何か見つけたかい?
小宮山:幾つか持って来たものがあるんで、また調べてもらいたいんですけど。
小野原:結構収穫があったんだね。
小宮山:まずは被害者のスマートフォン。充電しても電源が入らなくて。バッテリーがいかれてるのか、本体がいかれてるのか分からないんですけど。これのデータとかうまく抜き出せないかなって。あとこれ、被害者が持っていた薬袋なんですけど。病院で処方されたものと別の薬が一種類入っていたみたいで。一応病院で処方されていたもの含めて三つとも提出しておきます。ただ病院でもこの三つ目が分からないとのことだったので、特に優先して調べてもらってもいいですか。
小野原:了解。
小宮山:このくらいですよね、石川さん。
石川:そうだな。
小野原:OK。まあすぐに検査結果が出せるわけではないから、今日のところは解散でいいんじゃないかな。しっかり休んでもらって、明日報告できたらさせてもらうよ。
石川:ああ。
小宮山:分かりました。
藤宮:じゃあ続きは明日ですかね。
石川:ああ。今日のところはこれで終わりだ。
Day.2影
新情報
翌日、署に到着するとすでにマコも出勤している。昨日の小野原の言葉通り、まずは報告を聞きに三人は科捜研へと向かうこととなる。
小野原:おはよう。今日もご苦労様。
石川:お疲れ。
小宮山:おはようございます。何か分かりました?
小野原:ああ、そうだね。君たちが昨日持ち帰ってくれた証拠品をもとに色々調べてみたんだけど。色々結果が分かったから報告できることはあるよ。いくつか興味深いことも分かった。
小野原:まず、例のスマートフォン。結構長い間電源が入れられてなかったのかな。少なくとも1ヶ月以上は。そのせいでメールや着信履歴が結構溜まってて…。ほとんどは会社からだったんだけど、3ヶ月前に非通知との通話記録が残っていた。
石川:非通知?
小野原:ああ。会話の内容まではさすがに分からないけれど、明らかにこの非通知との会話を境に、他の着信に出てないね。
石川:なるほど。
小野原:ただこの非通知の特定は難しそうで、これが誰かまでは調べられそうにないかな。
小宮山:なるほど。
小野原:それとブラウザを立ち上げるとネットで何か調べ物でもしていたのか、いくつかタブが開かれたままになっていて。これなんだけど。
DL:と言って、小野原はプリントアウトされた紙の束をあなたたちに手渡してきます。パラパラと見ていると、どうやらオカルト系のまとめサイトが多いようです。
石川:〈洞察〉失敗
小宮山:〈直感〉成功
DL:では小宮山は、被害者が調べていたものが主にアンデッドに関することのようだと気が付きます。簡単に言えば“ゾンビ”のことですね。ゲームの攻略法の可能性もありますが、スマホ内にゲームアプリも見当たらないので、攻略法を探している風でもないなと思います。
小宮山:石川さん。
石川:ん?
小宮山:なんかこれ…やたらゾンビとかそういうのが多くないですか?
石川:ゲームだろ。
小宮山:そうかもしれないんですけど…うーん…。
石川:…。
小宮山:例の粉は、どうでした?
小野原:ああ、あの粉なんだけど。昨日君たちが持ってきてくれた薬袋に入ってたラベル名のない薬と同じ成分みたいなんだよね。
小宮山:なるほど。
小野原:あの薬を成分分析してみた結果、何の薬かまでハッキリ特定することはできなかったんだけど成分自体は主に抗がん剤とかにみられる成分のようだった。
小宮山:抗がん剤…。
小野原:うん。まあ一部よく分からない成分が含まれていて、ハッキリ抗がん剤とは言えないんだけど、近しい成分ってことは免疫とか細胞とかに作用する効能が期待されている薬なんじゃないかな。あくまで推測だから、完全にそうだと言い切れないんだけど。
石川:…ふむ。
小宮山:昨日の先生の話だと、そんな重病そうな感じではなかったですよね。
石川:少なくともガンということはなかったろう。
小宮山:それをわざわざ常備していた…。
石川:抗生物質と一緒に出すとも思えないしな。
小宮山:さらに分析を続けたら、もっと分かりそうなんですか?
小野原:一応分析は続けるつもり。僕としてもこれが何の薬かは気になるから。
石川:ロッカーの方はどうだ?
小野原:ああ、一応そっちは昨日向かわせた鑑識から報告が上がってる。君たちにとっては今回の報告の中で一番必要なものだったかもね。鑑識の話によると、ロッカーから被害者の井本のものと思われる指紋が出てきた。ただロッカーの中にはすでに目ぼしい物などはなかったし、指紋も被害者のもの以外の数が多すぎて犯人を特定するのは無理だった。でもその数ある指紋の中から、今回の被害者井本と同様に行方不明として最近捜索願いが出された人間が一人いたことが判明した。
石川:ほう。
小野原:行方不明者の名前は「児島 祐介」。2ヶ月ほど前、井本と同様に体調を崩してしばらく仕事を休んだ後、連絡の取れなくなった恋人から捜索願いが出ている。児島の部屋は恋人の意向で未だそのままの状態らしいから、君たちにはこれからそこの捜査にあたってもらうのが良いかなと思ってる。
石川:なるほど。
小宮山:児島さんはいまだに行方不明、ということですか?
小野原:みたいだね。
小宮山:一気にきな臭くなってきましたね。
石川:共通してロッカーに触れている…。薬の売買が行われていたのか?
小宮山:あり得ますね。そして何らかのトラブルに巻き込まれ行方不明…。
石川:行ってみよう。
小宮山:はい。
ハイツ真白
児島のアパートへとやって来た三人。部屋は酷い荒れ方をしていた。最初は空き巣に入られたのかと疑いはしたが、衣類や紙類が散乱しているのを見るに、何者かに荒らされたというよりは片付けが行き届いていないのだろうということが分かる。
石川:大家さん。ここの住人の人はどんな人だったという印象は残っていますか?
アパートの大家:ああ…まぁ児島くん人当たりの良い青年で、飲食店で働いてるみたいなんだけど、たまに作りすぎたお料理を私のところに持って来てくれるような良い子でしたよ。
石川:こんなだらしない性格でしたか?
アパートの大家:いやあ、そんな子ではなかったですけどね。ゴミもきっちり出してくれてましたから。
石川:ふむ。
小宮山:今このアパートの家賃は、児島さんの恋人さんが払ってらっしゃるということですか?
アパートの大家:そうですね。いつ帰って来てもいいようにって。
石川:そうですか。いつ頃から児島さんを見なくなりましたか?
アパートの大家:2ヶ月くらい前かなぁ。行方不明になる直前は体調が悪かったみたいで、病院に行ってるようなところは何回か見かけたけど。ハッキリいついなくなったかまでは…。
小宮山:どこの病院だったかとかは…あ、薬袋見れば分かるか。
石川:ああ。何て書いてある?
DL:では薬袋には井本と同様に神崎総合病院と病院名が書かれています。
石川:薬は何が?
DL:中を調べると井本と同じように抗生物質と吐き気どめ、そしてラベルのない薬が入っています。
石川:同じやつか。
小宮山:同じものですね。
石川:ちょっと大家さん、しばらく部屋見させてもらいますよ。
アパートの大家:お願いします。
小宮山:布団を調べましょうか。
DL:布団には少量の血痕や何かのシミが残っています。
小宮山:〈直感〉成功
石川:どうだ?
DL:では衣服の内側にも同じような少量の血痕やシミがついていることが分かります。体を掻きむしったりでもしたのかなと思うでしょう。
小宮山:血がついてます。衣服にも。
石川:自傷行為か?
小宮山:というより掻きむしった感じですかね。この感じだと。
石川:自傷行為だ。
小宮山:まあそうっちゃそうか?(笑)
藤宮:アトピーとかそういう皮膚の疾患だったんでしょうか?
小宮山:でも薬袋にそういった薬はなかった…。
藤宮:確かに。
小宮山:でも布団にまで血がついてるってことは相当激しく掻きむしってるはずです。
石川:…台所も見よう。
小宮山:そうですね。この衣服などは一応回収しておきます。
石川:ああ。
DL:では台所に行くと普段からメモを見たり、取ったりしながら料理をしていたのだろう、たくさんの付箋が台所周りに貼られていることが分かります。
石川:随分熱心に料理していたんだな。
小宮山:そうですね。飲食店で働いてるって話でしたし、研究でもしていたんでしょうか。
石川:それがこんなにだらしない様子なのが解さない。
小宮山:そうですね。
石川:病気か薬の影響か…。
小宮山:何か強いストレスを感じてたんでしょうか。
DL:眺めていると、1つだけ料理のメモではない内容のものを発見します。メモは他のものに比べると走り書きのように急いで書かれていました。
B-3-128, KK, 真白山
小宮山:石川さん、これ。
石川:…ふむ。
小宮山:例のロッカーですよ、これ。
石川:ロッカーだけじゃないな。
小宮山:「KK」「真白山」…。KKはイニシャルでしょうか?
石川:ふむ。
小宮山:真白山って知識として持っていますか?
DL:はい。皆さんが生活してるこの真白市にある山なので、真白山と聞けば「ああ、あの山か」と思うような山です。
小宮山:真白山に何かあるんでしょうか?
石川:調べてみるか。
藤宮:真白山って確か私有地だったと思うんで、もしかしたら捜査の許可が必要かもしれないですね。私ここの児島さんの証拠品の提出ついでに、一度署に戻って許可をとって来ますよ。だから先輩たちは先に捜査に向かってください。
石川:ああ。
小宮山:お願いします。
藤宮:じゃあ真白山の方はお願いします。
小宮山:これ、一度山に行く前に病院の方に行きますか?
石川:なんで?
小宮山:いや何か情報出るかなって。
石川:出ないだろ。
小宮山:まぁ出ないか(笑)じゃあ山に行きます。
真白山
真白山は私有地だが、特に入山自体に許可は必要ない。しかし土砂崩れの可能性が高く大変危険であるとされ、少し道を入った辺りから金網のフェンスが設けられており、一般人の侵入は禁止されている。ただし今回は署に戻ったマコが許可を代わりに取ってくれるため、このままフェンスを超えて捜査ができるだろう。
(ここでDLから集中捜査ロールについてのチュートリアルが開始されるが本リプレイでは割愛する)
集中捜査ロール1回目
石川:〈観察眼〉じゃダメなのか。
DL:注意深く観察しながら進むってことで〈観察眼〉でOKですよ。
小宮山:じゃあ僕も〈観察眼〉で。
石川:〈観察眼〉ダブル
小宮山:〈観察眼〉ダブル
集中捜査ロール2回目
石川:同じでもいいのか。
DL:大丈夫ですよ。
小宮山:じゃあ〈観察眼〉連打で。
石川:〈観察眼〉失敗
小宮山:〈観察眼〉失敗
石川:ダメだなあ(笑)
小宮山:僕ら結構〈観察眼〉とってたはずなのに全然ダメですね(笑)。
集中捜査ロール3回目
石川:〈観察眼〉ダブル
小宮山:〈観察眼〉ダブル
集中捜査ロール4回目
石川:〈観察眼〉トリプル
石川:調子がいいぞ。
小宮山:〈観察眼〉ファンブル
石川:…小宮山どうした(笑)
小宮山:(笑)
石川:…次で最後だぞ(笑)
集中捜査ロール5回目
石川:〈観察眼〉ダブル
小宮山:〈観察眼〉ダブル
小宮山:よかったあ。
DL:はい、では3回成功ですね。昨日の雨の影響もあってか足場が悪いなりにもそこそこ順調に捜査ができたようです。次第に日が落ち始め、足元や周囲には気を付けなければいけないと気を引き締めることでしょう。
廃屋
そうして金網の向こう側を手当たり次第に捜査していた二人は、くたびれた廃屋を発見する。くたびれてはいるが、作りは頑丈なようで、崩れたり壊れている様子は見られない。そのまま廃屋に近付いて見てみると、人が住むために建てられたわけではないのか、窓が天井付近に小窓のようなものがあるだけで、中の様子を覗くことは難しそうだと分かる。扉はボロボロに錆びているが、鍵はかかっていないようだ。
石川:…入るか。
小宮山:聞き耳してもよろしいですか?
DL:どうぞ。
小宮山:〈聞き耳〉ダブル
DL:中から物音はしませんね
小宮山:中を確認します。
DL:日が暮れているのでかなり薄暗いですね。
小宮山:電気はありますか?
DL:いえ、ありません。中は伽藍としているんですが、そんなに広くない部屋のようです。家具などがないせいで伽藍としているように感じるみたいですね。部屋の奥には頑丈そうな扉が見えます。
石川:…何のためのものだ?…入ってみるか。
小宮山:そうですね。
DL:では、スマートフォンの明かりなどを利用して、中に入っていくことになるのでしょう。中に入るとじめっとした湿度のせいか、カビ臭くて嫌な臭いが充満しています。窓が非常に小さいからでしょうか。
小宮山:奥も調べましょうか。
石川:うむ。
DL:では、奥の扉の先は一見細い廊下だけに思えましたが、よくよく見ると右手に小さい部屋が3つほど並んでいるのか、扉が一定の間隔を開けて見えます。
石川:ますます訳の分からん。
小宮山:ええ、複雑な上に結構しっかりした建物です。一体誰が何のために…?
石川:片っ端から行くか。
小宮山:分かりました。
DL:では、一番手前の部屋を見ると、2帖くらいの小さな部屋ですが壁に拘束具がついています。
小宮山:まるで独居房か何かみたいですね。
石川:部屋のサイズもそうだな。隣行くぞ。
DL:隣の部屋も同じような部屋ですね。
石川:これがずっと続いてるのか?
小宮山:使われた形跡とかは分かりますか?
DL:最近使われた感じはありません。そのまま一番奥の部屋を見ると、この部屋の床には薬が散らばっています。
小宮山:石川さん、この薬…。
石川:ここに繋がるのか。
小宮山:見覚えのある薬ですか?
DL:はい。例のラベルのない薬に似ています。
小宮山:いったい何があったって言うんだ?とりあえずこれは証拠品として確保しておきます。
石川:投薬の実験にしたって、ここに人を拉致監禁してなんて、およそ現代日本では考えられない所業だ。
小宮山:ええ。しかもそこまで奥僻地というわけでもない。いくら私有地でとは言っても、人が入ってこれないわけでもないですし。
石川:児島はこれを知っておきながら、周りに何も喋っていないというのも非常事態だな。
小宮山:こうなってくると、いよいよ児島さんの安否が気になりますね。
石川:うむ…。すると井本は口封じに殺された可能性も…あるか。あるいは用済みになったか。
小宮山:あるいはここにずっと拘束されていて、それで餓死とかそういう風になってしまって…。
石川:あとは用済みで処分された。
小宮山:そうですね。
石川:さて、引き上げるか。薬も…
静寂に包まれる二人の間を切り裂くように、けたたましい着信音が鳴り響く。
石川:もしもし。
小野原:もしもし?
石川:どうした?
小野原:いやちょっとね。捜査はどう?
石川:まぁ順調と言えば順調か。
小野原:そうか。こっちはあれから井本さんのご遺体をもうちょっと詳しく調べてみたんだけど…。ちょっとおかしいというか、不思議というか…ありえないというか…。
石川:あの状態からさらに何か分かったのか。
小野原:そうだね…。ご遺体は確かにすっかり焼け焦げてて、腐敗具合からみても確かに1ヶ月以上前には亡くなっているはずなんだけど。一部の細胞がまだ生きているんだよ。
石川:なるほど。素人にはそれが何がどうおかしいのか判断できないんだが…どうおかしいと?
小野原:1ヶ月も前に亡くなっているはずなのに、まだ身体は生きてる…って言ったらいいのかな…。外側の細胞は焼けて死んでいるけど、身体の内側の細胞の一部はまだ生きている。脳が死んでいるから動かないだけ、なのかもしれない。
石川:なるほど…。脳は死んでいるのか。
小野原:そうだね。脳の機能は完全に停止している。
DL:では、そのような話をしていたあなたたちは、背後から忍び寄る影に気付くことができたのか。〈*知覚〉,〈聞き耳〉,〈危機察知〉で判定してください。
石川:だれだー(棒読み)
小宮山:俺の危機察知を舐めるなァ!
石川:〈聞き耳〉ダブル
小宮山:〈危機察知〉トリプル
DL:では、あなたたちはその影に気が付き、攻撃を避けることができました。
突然襲われたあなたたちが振り返った先にいたのは、人間だった。 しかしそれは人間というにはあまりにおぞましい姿をしていた。 死人のような顔色と、爛れた肌から滲み出る体液は悪臭を放っており、捲れた皮膚の下には無数の蛆が湧いている。どう見ても死んでいるはずだ。なのに、なぜだ。 目の前の存在は確かに動き、あなたたちを狙っていた。
石川:〈共鳴判定〉失敗
小宮山:〈共鳴判定〉成功:共鳴レベル1上昇
(ここでDLからこのゾンビとのラウンド進行について情報が共有されるが本リプレイでは割愛する)
石川:制圧するぞ。
小宮山:了解です!石川さん発砲許可を!
石川:撃ってもいいが俺は〈★射撃〉を持っていないから頼むぞ(笑)
石川の格闘技と小宮山の放った銃の弾丸によって、ゾンビはその場に崩れ落ちる。 動揺していたのか、小宮山の狙いがうまく定まらない場面もあったが、結果的に傷ひとつ負うこともなく二人は危機を脱することができた。
小宮山:さすがです、石川さん
石川:いや、よく撃った。
小宮山:しかし…これって…。
石川:うむ。
小宮山:まさにゾンビってやつ…ですかね。
石川:…児島か?
DL:遺体を調べてみると腐敗具合からみても死んでからすでに2週間以上は経過していそうです。衣服を調べてみると、免許証が出てきます。免許証には「児島 祐介」と書かれていました。
小宮山:なんてこった…そんなことあり得るのか?
石川:電話の内容とまったく同じ状態だな
小宮山:これ…なんとかして科捜研に持ち込んだ方がいいですよね?
石川:運ぶのは厳しいか。何か、体の一部だけでも持ち帰るか。証拠としては…。
DL:そのような話をしていると、突然バタバタと数人の人間が部屋に押し入ってきます。
小宮山:誰だ!
DL:その中から男が一人、警察手帳を見せながら口を開きます。
黒川:警察庁警備局警備企画課の黒川だ。以後この事件の捜査は我々公安が受け持つこととなった。
捜査の打ち切り
男の手帳には「黒川 晃一郎」と名前があった。 どうやら本当に警察の人間らしい。 黒川はそのまま、床に転がる遺体を一瞥し部下に回収するよう促した。
小宮山:公安?
黒川:さて、君たちが今持っている証拠品もすべて私たちに渡してもらおう。
石川:ええ、いいですよ。
黒川:話が早くて助かる。
小宮山:なんで公安がでしゃばってくるんですか?
黒川:…でしゃばってくる?
小宮山:石川さんいいんですか?
石川:俺は事件が解決できたらいい。
小宮山:…それはそうですけど。
石川:公安さんがよろしくやってくれるんだろ?
小宮山:…あなたたちは、これについて色々知ってるってことですか?
黒川:君たちに話をする必要はない。そんなことはいいから、君たちが持っている証拠品を渡すんだ。
石川:ほら、小宮山。指示に従え。
小宮山:…分かりました。
黒川:念の為に君たちのスマートフォンも一時的に預かっておこう。なに、すぐ返すよ。
石川:ええ、どうぞ。
黒川:さて、ここで見たことは決して口外しないように。もちろん署に戻っても、だ。君たちも誇り高き警察官ならば、この意味、分かるだろう?
石川:言われなくても。
黒川:君は物分かりが良いな。素晴らしい。部下にもきちんと言いつけてくれたまえ。
小宮山:めっちゃ不満タラタラの目で見てます。
黒川:さて、この後の捜査は我々で行おう。せっかくだ。我々の車で君たちも署まで送り届けよう。
石川:お願いします。
小宮山:…お願いします。
黒川の部下により、廃屋から追い出された二人はそのまま下山すると、彼らによって車へと押し込まれる。重たい空気が張り詰める車内で、何が起きているのか考えているうちに、気付けばU県警本部へと戻ってきていた。
小宮山:石川さん!いいんですか?!そりゃ事件は解決するかもしれませんけど…でも、だって…あんなのおかしいでしょ!
石川:何がおかしいんだ。
小宮山:だってゾンビですよ!ゾンビ!
石川:さっき聞いた話を忘れたのか?それについて喋ってはいけないと言われただろう。
小宮山:そうですけど…。だって…。あれがですよ。もし仮に、薬だとか病気だとか、そういうものだったとしたら…!
石川:いいか、小宮山。この件については公安がやるんだ。
小宮山:はい。
石川:しかし井本 雅和の件については言われていない。
小宮山:…はい!そうですね、分かりました!
そんな話をしながら署に戻ると、事務所にはマコと小野原がいた。
藤宮:石川さん!何があったんですか?突然、上からお達しが入ったんです。この件は公安に一任したから、手を引けって…。
石川:ああ、その通りだ。
藤宮:こんなの納得できませんよ!
石川:なんで二人とも納得がいかないんだ。
藤宮:ええ?だってこんなの納得できるんですか?
小宮山:マコさん、マコさん。
藤宮:もう、なに?
小宮山:児島さんの件は公安がやるんですけど、井本さんの件は別件なんで、井本さんの事件に僕らは全力を注ぎましょうよ。
小野原:…いや、そんな頓知みたいなこと言ってるけど、僕の方も証拠品押収されたんだよ?ご遺体も、証拠品も、何から何までぜーーーんぶ、ね。こんな状態で一体何を調べるって言うんだい?そもそも、君たちは真白山で何を見たって言うんだい?
石川:それについては話すわけにはいかない。
小宮山:…そうですね。
小野原:…話すわけにはいかない?
石川:ああ。
小野原:…そうか。
藤宮:…私は分かんないですけど。でも二人が話せないって言うなら仕方ないですね。
石川:ああ。これから情報を得て、分かったことについては共有しよう。
小宮山:でも、石川さん。正直どうします?ぶっちゃけ僕ら手詰まりみたいなところありますよね。
石川:そうだな…。
小野原:まあとりあえず今日のところは解散がいいんじゃないか。どっちにしろ証拠品も全部押収されてる。むやみやたらに動き回っても公安に目をつけられるだけじゃないかな。
石川:うむ。
小宮山:分かりました。
そう言ってこの日は解散することとなった。小野原はいまだに納得のいかない様子のマコを宥めている。そんな彼らを残し、二人が警察署を出ようとするとエントランスで黒川と再会する。
小宮山:…お疲れ様でーす。
黒川:なるほど。きちんと言いつけが守れたようだな。石川くんの教育の賜物だろうか。
小宮山:ええ。
石川:まあ、何年もやってますから。
黒川:そうか。とにかく指示を守れたことは評価に値する。ただし、我々はいつも君たちを見張っている。そのことを忘れるな。
小宮山:そういえば僕、なんでか知らないんですけど拳銃の弾が二発分なくなってるんですけど、これについては黒川さんたちがうまくやってくれるってことなんですよね?だって、なんでなくなってるのか分からないんですから?
黒川:ああ、その件についてはこちらで対処しておこう。しかし、君たちにはしばらく謹慎処分を受けてもらう。
石川:…なるほど。
小宮山:謹慎?!自宅から出るなって言うことですか?
黒川:そういうことだ。なに、休暇が与えられたと思えばいい。期間は追って連絡させよう。
石川:…分かりました。
黒川:君は本当に物分かりが良くて助かるよ。
そのような会話をしていると、黒川の部下が「車が到着しました」と黒川に耳打ちをすると、彼は「すぐに行く」と答え、そのまま署の前に停車された車へと乗り込んで行った。
小宮山:…いいんですか、石川さん!何で僕が謹慎なんですか!
石川:(笑)じゃあ何とかしてみろよ(笑)
小宮山:…そういうのは先輩が何とかしてくれるものじゃないんですか!
石川:ワガママばっかり言ってー。
DL:ワガママばっかり言ってー。
小宮山:ワガママ言うのが新入りの特権でしょう。
黒川が乗り込んだ車の後部座席には、年老いた男性が乗っているのが見えた。 警察関係者なのだろうか。 そんなことを考えていると、ふと、その男性と目があったような気がした。 しかし、すぐに視線は逸らされ、そのまま彼らを乗せた車は発車した。
───雨が降り始めた。
走り去っていくその車を見つめながら、二人はそれぞれ何を思ったのだろうか。
(ここでDLからそれぞれに個別で情報が送信されている。内容は以下。ただし本リプレイでは詳細は割愛する)
石川への個別情報
黒川の乗り込んだ車の後部座席に乗っていた男は、かつて自分の両親を殺した仇だった。
小宮山への個別情報
黒川の乗り込んだ車の後部座席に乗っていた男は、かつて自分を救ってくれた恩人だった。
Day.3表と裏
1ヶ月後
例の事件から二人は1ヶ月の休暇を与えられていた。 表向きは休暇だが、暗に謹慎処分に近いものなのだろう。 公安に押収されたスマートフォンなどはすぐに返却されたが、事件に関係するデータは削除されていた。勿論、事件に関係する証拠品も一切合切押収されているため、今PCたちの手元にはどの証拠品も残っていない。
1ヶ月の休暇から戻ってきた二人の耳にまず入ってきたのは「藤宮 マコが2週間前から行方をくらました」ということだった。 実家の父親が倒れたため急遽休みが必要だとのことで、1週間ほどの有給申請を提出した後、それきり行方が分からなくなってしまったらしい。有給休暇の日程が過ぎても出勤してこないことに心配になった他の刑事が、マコの実家に連絡をしたところ、マコはしばらく帰省していなかった。どうやら父親が倒れた話は嘘だったようだ。 そうして二人は、休み明け早々マコの足取りを辿るため、彼女の自宅を訪れていた。
石川:なんでこんなことになった…。
小宮山:マコさんが行方不明って…。
石川:このタイミングでこれはまずいな。
小宮山:はい。
石川:調べるぞ。
小宮山:じゃあコルクボードを見ます。
DL:ではマコの部屋のコルクボードに、1ヶ月前の例の事件の捜査資料がピン留めされています。ただし捜査資料と言っても正式なものではなく、マコの手書きでまとめられたものです。公安に捜査を横取りされたことがよっぽど悔しかったのだろうか。マコは独自に捜査を続けていたようですね。
小宮山:マコさんも負けん気強いからなぁ。
小宮山:〈観察眼〉ダブル
石川:何か見つけたか?
DL:では井本の遺体発見現場である火災現場の写真の横に、「イレギュラー?」と小さくメモが書いてあるのを見つけます。
小宮山:イレギュラー…何のことでしょう?
石川:…。
小宮山:これだけじゃちょっと分かんないですね…。個人情報で申し訳ないですけど、健康診断の結果を見させてもらいましょうか。
DL:神崎総合病院のA4サイズの封筒の中を見ると、1ヶ月前に出たマコの健康診断の結果が書いてあります。結果を確認すると血液検査の欄に 「異常」「要精密検査」と書かれています。
石川:こんなこと言ってたか?
小宮山:いえ。見た目にも健康そうでしたけど。血液…検査…。薬袋を見ます。
DL:神崎総合病院の薬袋です。薬袋には井本・児島と同じように抗生物質と吐き気止めの他に、ラベル名のない謎の薬が入っていました。
小宮山:石川さん、これ!
石川:事情を知っているだろうに、なぜ?
小宮山:もしかして、この健康診断の血液の異常って…。
石川:…。
小宮山:病院に行きましょう!病院に!
DL:では、一通り部屋を調べたあなたたちは部屋に違和感を覚えます。
石川:〈洞察〉トリプル
小宮山:〈直感〉成功
DL:では、井本・児島とは違い、非常に部屋が片付いていることが分かります。ただ、一つ嫌な予感も頭を過ぎります。自殺する人間は部屋を綺麗に片付ける者も多いと耳にしたことがあるな、と。
小宮山:…急ぎましょう。
石川:…ああ。
マコを追って
石川:やあどうも。
神崎:あなた方ですか。本日はどのようなご用件で?
石川:私の同僚の藤宮マコの検査結果についてお聞きしたいことがありましてね。
神崎:はあ…検査結果?
石川:ええ。小宮山。
小宮山:先日の健康診断で血液に異常あり・要精密検査と書いてありました。これ、具体的にはどういう状態ですか?
神崎:具体的にと仰られましても…。確かに再検査のために来院はされましたけど、患者の個人情報をそう簡単に開示はできません。何か事件が起きたという訳でもないでしょう?
小宮山:事件が起きてるんですよ!もう二週間も行方が分からないんです!現職の刑事ですよ。
神崎:何か仕事が嫌になってどこかに行っただけかもしれないでしょう。
石川:勿論その可能性もあります。ですがこの件に関係してないとも言い切れないでしょう?
神崎:だとしたら、この件に当院が関係していると言う確かな証拠でも持って来たらいかがですか?
石川:…。
神崎:今現在あなた方に協力しなければならない義務は、私どもにはありませんよね。あるとすれば、患者様の望む治療に努めること。それ以上でも、それ以下でもありません。
小宮山:先生。
神崎:なんでしょう。
小宮山:これは僕らの同僚の部屋から出てきた薬袋です。この中には先日お話をさせていただいた井本さんと同じ3種類の薬が入っています。そして、井本さんとは別の行方不明者の部屋からも、同じ薬が見つかっています。
神崎:…たまたま同じだっただけなのでは?
小宮山:もちろん、たまたまの可能性もあります。でも僕らはこれを…今捜査中の公安の刑事に渡すこともできます。
神崎:…出したらいいじゃないですか。
小宮山:いいんですか?
神崎:ええ、構いませんよ。
小宮山:あれ…そういう事になるの…?
石川:うん(笑)
神崎:あなたが仰っているのは状況証拠でしかありませんよね。
石川:ええ、ですから何か話が聞けないかとやって来たのですが、何もご存知ないということですね?
神崎:ええ。
石川:分かりました。お時間取ってしまい失礼しました。
神崎:いいえ。こちらこそご理解いただけたのならなによりです。それでは失礼します。
石川:小宮山。
小宮山:はい。
石川:公安が出てきた時点で、病院はグルだ。
小宮山:そんなのおかしいじゃないですか!
石川:おかしいから調べてるんだ。そもそもこの事件について目立った動きをすれば公安にチクられる可能性もある。今接触を図ったことで、神崎は公安に話す可能性が非常に高いな。
小宮山:だって明らかにおかしいのに…!警察がグルになってるっていうんですか…?
石川:可能性はある。だから、なんとかしないとな。
小宮山:絶対におかしいです…!
石川:…うむ。
そうして二人が神崎総合病院を後にしようとした時、見覚えのある人物と出会った。
石川:…やあ黒川さん。
黒川:…おや見た顔だな。
石川:調子はいかがですか?
黒川:調子は上々だ。それよりもなぜここにいる?
石川:この病院はこの市の人が全員とは言いませんが、たくさんの人が通っている病院ですから。私たちがこの病院に来ていてもおかしくはないでしょう?
小宮山:そうです。健康診断の話を聞きに来たんですよ、僕は。
黒川:二人揃って仲良くか?
石川:ええ。休み明けでね。すっかり体が鈍ってしまって。
小宮山:そうですよ。家から出るなと言われちゃってましたしね。
黒川:…お前たちが何を考えているか知らないが、あの件から手を引くように言ったことは忘れるなよ。
石川:勿論。
黒川:…まあ石川くんは非常に物分かりの良い優秀な刑事だろうからな。期待している。
小宮山:すみませんねー。物分かりの良くない、優秀じゃない刑事で。
黒川:…君はもう少し石川くんを見習った方が良いな。
小宮山:見習ってますよ、先輩のことは。
黒川:だったら無駄なことは口にするな。
小宮山:すみませんねえ…。まだ何が無駄で、何が無駄でないか判断できないもので…!
突然、黒川に着信が入る。
黒川は少し距離を取って通話に出ると、驚いたような顔をして二人に目を向ける。そして、渋々といったような顔で通話を切ると、名刺入れから名刺を取り出し、何かをメモすると石川に向かって手渡した。
石川:…なんでしょう。
黒川:今晩午前1:00に、この病院の裏口まで来るといい。
石川:はあ。
黒川:裏口のロックのパスワードだ。少し気が変わった。事件について調べたければ気が済むまで調べるといい。
小宮山:へ?!
黒川:ただし、我々公安が目を光らせていると言うことは忘れないように。やるならお前たちだけでやることだ。
小宮山:なんでまた急に…。
石川:無駄口叩くな。行くぞ。
小宮山:…失礼します。
小宮山:石川先輩何かしたんですか?
石川:いや、心当たりはないな。
小宮山:じゃあ何が?
石川:さあな。
小宮山:どっちみち、今日の夜中にここにこいってことでしたよね。
石川:ああ、1時だ。時間まで車で待とう。
深夜の潜入捜査
深夜の神崎総合病院へと向かうこととなる。 病院の中はいくら人が少なくなったとはいえ、完全な無人などではない。 慎重に侵入する必要があるだろう。
DL:ここでも集中捜査ロールが必要になります。
集中捜査ロール1回目
石川:よし。〈隠匿〉で振るぞ。
小宮山:〈危機察知〉でもいいですか?
DL:見つからないように気を張るってことで〈危機察知〉でもOKですよ。
石川:〈隠匿〉成功
小宮山:〈危機察知〉成功
集中捜査ロール2回目
石川:〈隠匿〉ダブル
小宮山:〈危機察知〉ダブル
集中捜査ロール3回目
石川:〈隠匿〉失敗
小宮山:〈危機察知〉ダブル
石川:ガチャーン!!
小宮山:先輩!?
石川:おっと失礼。
集中捜査ロール4回目
石川:〈隠匿〉ダブル
小宮山:〈危機察知〉ダブル
集中捜査ロール5回目
石川:〈隠匿〉ダブル
小宮山:〈危機察知〉ダブル
(ここでDLから情報の取得についてのチュートリアルが開始されるが本リプレイでは割愛する。また入手できる情報も省略している。)
受付
石川:受付から行くぞ。
小宮山:はい。
石川:〈観察眼〉失敗
小宮山:〈観察眼〉ダブル
結果:ボーナス成功+1で成功数3
石川:何か分かったか?
- 情報1
- 受付の入館記録の中にマコと黒川の名前を発見する。マコが最後にこの病院に来たのは、3日ほど前。そして、入館記録の中でも深夜帯に多く見られる名前が神崎 恭介の他に「神代 要」とある。
- 情報2
- 受付の奥に院内薬局があるが、例の薬は見当たらない。井本・児島・マコのカルテも見つかるが、カルテに不自然な点は見当たらない。
- 情報3
- 薬の棚卸しのリストなどを見るに、この病院に薬を卸しているのは「神代製薬」という製薬会社のようだ。
小宮山:石川さん。マコさん、3日前に来てるみたいです。
石川:問題は意識があるかどうかだな。
小宮山:受付の入館記録…。これを黒川は見せたかったんでしょうか。
石川:黒川が、というわけではないだろう。
小宮山:あとこの神代 要。この人もイニシャルKKですね。
石川:ああ。
小宮山:神代製薬…。
石川:資料室も見るか。
小宮山:行きましょう。
資料室
石川:〈観察眼〉成功
小宮山:〈観察眼〉ダブル
結果:ボーナス成功+1で成功数4
- 情報1
- 本棚の中から古い記事を発見する。それほど大きな記事ではないが、目を引いたのはその内容だった。当時5歳の子供が「神代製薬」の 「神代 要」が開発した新薬によって救われたと書かれていた。
- 情報2
- 別の本棚の中から、寄生虫やウイルスなどによって自我を失う症例がまとめられた資料を発見する。
- 情報3
- その資料の間に、小さく「共鳴性消耗病」という走り書きを見つける。
小宮山:石川さん。
石川:なんだ。
小宮山:この記事の当時の5歳の子供が救われたって。これ、僕のことです。
石川:…そうか。
小宮山:神代 要…。この人が僕を助けてくれた?
石川:これまでの患者は、被害者は全員性格が変わった…とは言わんが。部屋が荒れていたり、何か様子が普段とは違ったようだ。ここに寄生虫やら何やらという話があるが、関係してるかもしれんな。
小宮山:そうですね。それに、共鳴性消耗病…?
石川:それが今回の病名なんだろう。
小宮山:なるほど。
石川:それで藤宮はまだ進行が微弱なのか、性格が変わるまではいっていない。まだ間に合うかもしれん。
小宮山:…そうですね。早く見つけましょう。
石川:院長室に向かうぞ。
院長室
石川:〈観察眼〉ダブル
小宮山:〈観察眼〉ダブル
結果:ボーナス成功+1で成功数5
- 情報1
-
デスクの中から資料を発見する。
・井本 雅和:レベル8以上のため急ぎ居所を突き止める必要アリ。遺体を確認。廃棄。
・児島 祐介:レベル10に到達、本格的に投薬実験開始。諸事情により廃棄。
・藤宮 マコ:レベル8以上…「B-3-128」鍵番号「928617」
- 情報2
- この資料に神崎の名前とは別に「KK」とサインがある。
- 情報3
- 資料の中に「黒川 里沙子」と言う名前を見つける。
小宮山:…マコさん、これ…ロッカーのところに向かってるってことですかね?
石川:…ぽいな。レベルはもう充分に高いが、イレギュラーだから助かってるのか…?
小宮山:…そうか。
石川:このKKはお前が気付いた通り、神代の方かもしれないな。
小宮山:そうですね。
石川:…あの車に乗った人物…ヤツが神代か。
小宮山:僕、あの人見たことある気がしたんです。子供の頃、病院から退院した時に、あの人を見たような気がします。さっきの新薬開発の話と合わせれば、あの人は確かに神代 要なのかもしれない。
石川:…だから許可をくれたんだろ。それから公安の黒川の…これは…親族、関係者?もしかするとだが。
小宮山:僕らにこれを見せて、いったい何をしようって言うんだ?
石川:さあて。
小宮山:まずは駅のロッカーですかね。
石川:そうだな。
小宮山:急ぎましょう。
手紙
真白駅に着いた二人。例のロッカーを調べると、鍵がかかっていた。
鍵番号を使用してロッカーを開くと、そこには紙袋が入っていた。
中には鍵が一つと、一通の手紙。
手紙には二人の見慣れた文字で、できればこれ以上事件を追って欲しくはないということ。けれど二人は刑事だからきっと止まらないのだろうと分かっていること。ならばせめてヒントとして、神代
要の自宅の住所と鍵を残しておくことが書かれていた。 それは藤宮
マコからの手紙だった。
小宮山:なんだよ、これ。納得できるわけない!…行きましょう、先輩。
石川:…感情だけで動くのはやめておけ。
小宮山:…。
石川:…。
小宮山:…そうですね、すみません。大丈夫です。自分は刑事です。真実を突きとめる義務があります。
石川:…行くか。
小宮山:はい。
神代邸
神代 要の邸宅は広く綺麗な一軒家だが、生活臭が全くなく、まるでモデルルームのようだ。 マコが残した合鍵を使用すれば、何なく中へ侵入する事ができた。
石川:確かに本人はいないみたいだな。
小宮山:生活臭がまったくありませんね。こんなに立派な家なのに。
石川:リビングから見るか。
小宮山:はい、調べましょう。
DL:リビングに飾られた幾つかの写真立ての中に、仲睦まじく寄り添う親子の姿を撮影した写真を見つけます。父親らしき人物は、1ヶ月前、黒川と同じ車に乗っていた年老いた男です。だが写真の様子だとまだ若く、かなり古い写真なのだろうと分かります。もう一人は娘でしょうか。幼い女の子が写っています。他の写真には、男が妻らしき人物と二人で撮影されたものもありますが、親子三人で撮影された写真は存在しません。
石川:全然関係ないが、そういえばお前もKKだな。
小宮山:いや、僕タケルです。
石川:そうか(笑)
小宮山:ケンじゃなくてタケルです(笑)
石川:ずっとケンだと思ってた(笑)
小宮山:(笑)
石川:お互いのこと知らないもんだな(笑)
小宮山:本当ですね(笑)それよりこれは、本人が帰ってないにしても家族が帰ってる様子もないですね。
石川:のようだが、この写真…。
小宮山:娘さんですかね。随分古いですけど。天涯孤独ってわけではないのに。
石川:〈観察眼〉ダブル
小宮山:〈観察眼〉ダブル
DL:どれも同じくらいの時期の写真しか残されていないことに気が付きます。要するに男が若い頃の写真しかないってことですね。
小宮山:随分古い写真しかないですね。
石川:亡くなったか、絶縁したか。
小宮山:そういうことか。
石川:他も見るか。
小宮山:はい。
石川:書斎か。難しそうな本が多いな。
小宮山:本棚を見ます。
DL:神代 要の書斎は膨大な医学書や薬学書で埋め尽くされていました。神代 要が自分で書いたのであろう論文やレポートの数も膨大で、彼が人生のほとんどを研究に充ててきたことが想像できます。その中に、児島のようなゾンビ化した人間たちの写真が大量に記録されたファイルの束を発見しました。横にはそれぞれ小さく観察記録のようなメモが残されており、要約すると、神代はゾンビ化した人間の細胞を例の薬に含ませ、それを他の人間に服用させていると書かれていました。
小宮山:…意図的にゾンビにしていた?薬を飲ませて。
石川:何とか細胞ってやつあるだろ。
小宮山:…例の死んでない細胞ですか?
石川:凄い細胞か何かを培養して、体の一部に埋めたりとかいう話があるだろ。
小宮山:ああ、IPSとかそういうやつ…。
石川:ああ。それのもっと凄いやつか?素人には分からんが。
小宮山:医学の発展のために犠牲にしてた…ってことか?
石川:適合するかどうか、そういうことが関係していたのかもしれんな。
小宮山:…このままだと、マコさんもこうなっちゃうかもしれないってことですよね。
石川:…デスクも見よう。
小宮山:…ええ。
DL:デスクの上には、4枚の写真が置かれていました。うち2枚は、あなたたちの写真です。どうやら神代はすでにあなたたちのことを知っているようです。そして、残りの2枚の写真には、30代くらいの男性と女性が撮影されていました。あなたたちの写真に比べると古く、よくよく見ると男性の方は白衣を着ています。白衣についたネームプレートには「神代製薬」と書かれていました。神代製薬の関係者でしょうか。
小宮山:僕らと…これは、誰だ?
石川:…知らないな。
小宮山:神代製薬…。さっきの神代 要とは別ってことですよね?
DL:そうですね。
小宮山:…石川さんは神代と面識あったんですか?
石川:…いや。ない。
小宮山:そっか。僕のことは知ってる可能性あるんですよね。新薬で大々的に救った患者ってことで記事にもなってますし。いまだに追ってる理由はわかりませんけど。
石川:神代からしたら小宮山は、成功した実験例の一人…なんだろうか。
小宮山:例の薬のってことですか?
石川:可能性の話だ。まあ例の薬ではないにしろ、救われたんだろう?神代に。
小宮山:そう、ですね。
石川:だとしたら調べていてもおかしくはない。だが、自分を調べさせるためにわざわざ黒川に連絡を入れるか?
小宮山:そうですね。というかなんで黒川はわざわざ?
石川:驚いた様子だったしな。
小宮山:わざわざ手足みたいな感じで。あんなにプライドの高そうな人が。
石川:俺の写真がここにあるのは、同様の理由か。小宮山と組んでいるからか…。
黒川:それについては私から話をしてやってもいい。
石川:…。
黒川:さて、その前にここまで色々と見てきた感想を聞かせてもらってもいいか。
石川:感想、ですか。
黒川:ああ。
石川:そうですね。あなたも随分と“事情”がおありなようで。
黒川:そうだな。
石川:あなたの“事情”の方を優先させたんですか?
黒川:いや、私は私の“事情”を優先させてはいない。
石川:そうですか。
黒川:…君たちは真実を知る気はあるか?
石川:ええ、そのために来ました。
黒川:そうか。小宮山くんも?
小宮山:当たり前です。
黒川:そのための、覚悟はあるのか?
石川:私は「覚悟なんて要らない」って言う人間なんですが…。あなた方がそう覚悟と表現するものは持ち合わせていると思いますよ。
黒川:そうか。
小宮山:…何も知らないってのは怖いです。僕は昔、何も知らなかった。外の世界のことも。でも今は知れるようになった。自分の意思でです。それなのに今になって、どっかの誰かの勝手な思惑で蚊帳の外にされたり、急に中に入れられたりだとか、そんなのゴメンです。僕は知りに行く。そこで何か決めろと言うのなら、知ってから決める。それを覚悟って言うのなら、僕も覚悟はできてます。
黒川:そうか。
一つ話をしよう。昔一人の刑事がいた。仕事に熱心で、頑固で、勢いだけは誰よりも自慢の熱血刑事だ。男には妻がいた。男は刑事として、街の安全と、妻の幸せを胸に誓っていた。しかしそんな幸せは長く続かなかった。妻は不治の病に犯された。現代の医学ではどうしようもなかった。次第に衰弱し、人が変わっていく様子は見ていられなかった。男は絶望した。なぜこんな善良な人間が死ななければならないのだ、と世間を呪った。しかし女は男を嗜めた。そして、自分が死んでも、たくさんの人間を救ってほしいと、そう言った。男は女の言葉を守ると答えた。それを聞いた女は笑って死んだ。
だから私も、覚悟した。
その瞬間、黒川は二人の隙をつき、素早い身のこなしで銃を撃った。 腕にちくりと痛みが走ったと思った次の瞬間、意識が遠のくのを感じる。 崩れ落ちる二人の耳に、「君たちの覚悟を見せてくれ」と小さく呟く声が聞こえた。
神代 要
目が覚めた二人は、それぞれ自分がいる場所が小さな部屋だと気が付く。 隣に相棒の姿はない。持ち物も無くなっている。 部屋にはモニターと、椅子が一つずつ置いてあるだけだった。
DL:これ以降、PC・PLいずれであっても会話や相談をすることができません。
石川・小宮山:はい。
突然モニターが点灯する。 モニターには椅子に座った男が映っていた。 神代 要だった。
神代:手荒な真似をしてすまない。ちょっと君たちと話がしたくてね。黒川くんに無理言って君たちを連れてきてもらったんだ。何、麻酔も危ないものじゃない。心配いらない。さて、色々と聞きたいことや言いたいことがあるだろうが、まずはこれを見ていただこう。
と言って、神代が手元のリモコンを操作すると、モニターの映像が切り替わった。 そこには見るも無惨な姿の藤宮 マコが映っていた。
石川:〈共鳴判定〉成功:共鳴レベル1上昇
小宮山:〈共鳴判定〉ファンブル
小宮山:…マコさん。
マコは解剖台の上に寝かされ、頑丈そうな拘束具で拘束されていた。 認めたくはないが、真白山での児島のように既に自我はないようだ。 絶えず口元から涎を流し、皮膚には蛆が湧き、拘束具を破壊せんとばかりに暴れている。
神代:この彼女の姿を見てどう思う?
小宮山:…あんたがやったのか?
神代:私にこんなことができるわけがない。私はね、彼女のような人間を見るたびに自分の不甲斐なさを情けなく思うよ。彼女を助けることができなかった。
小宮山:…助ける?
神代:だからせめて、犠牲になった彼女のためにも、しっかりこの彼女の体を有効活用してみせよう。
そう言って神代はマコの体にメスを入れ始める。 途端にマコは、雄叫びのような悲鳴を上げた。 確かにマコは既に死んでいるのかもしれない。 もはやマコ本人の意思などは存在しないのかもしれない。 しかし、そうだったとしても、その光景はあまりに倫理に反していた。
小宮山:ちょっと待てよ!
神代:なんだい。
小宮山:あんたらが…あんたらがマコさんをそんな風にしたんじゃないのかよ、あの薬で。
神代:私たちにそんなことはできない。
石川:症状を遅らせようとしていたんですか?
神代:そうだ。君は察しがいいね。私はね、彼女を治療しようとしていたんだよ。
石川:でなければ、ロッカーに三人とも行くはずがない。
神代:そうだ。
石川:黙って…そう、特に藤宮は。
神代:その通りだ。だが彼女は他の二人とは違ってね。やはり刑事だったということなのか。私を信用できなかったのだろう。あの薬を服用しなかったようだ。だから症状を遅らせることができなかった。
石川:なるほど。
小宮山:どうしてこんな目にあってるんですか。あんたのせいじゃないって言うなら。
神代:…病気だよ。これは、ただの病気なんだ。
小宮山:病気?
石川:…共鳴性消耗病?
神代:そう。君たちは“怪異”という存在を知っているかね?
石川:…それを信じろと?
神代:信じなくとも構わない。しかし、“怪異”は確実に存在していて、我々社会に何かしらの影響を与えている。そしてその影響を受けるたびに、人は“それ”に近付いてしまう。私はこれを“逸脱”と呼んでいるんだがね。
石川:…なるほど。
小宮山:ゾンビに近付いたから、そうなってしまったってことですか?
神代:そういうことだ。この“怪異”から受ける影響、それを“共鳴”と呼んでいるのだが、この振り幅は人によって違う。彼女は特にその影響を受けやすい体質だったんだろう。現に何の影響も受けない人間もいる。君たちにも覚えはあるかもしれない。自分たちが“怪異”の影響を感じている中、何の影響も受けていない人間が。
石川:ええ、いました。
小宮山:…小野原さん?
神代:そう、そういうものなんだ。そしてこの病気は、現代の医学ではまだ治すことは出来ない。
小宮山:…遅らせることはできても?
神代:そう。例のあの薬には、すでに“逸脱”してしまった人間の細胞を含ませている。それを服用することによって、“怪異”にその体がすでに“逸脱”したものだと勘違いさせることができるんだ。今は、それしかできないんだよ。
小宮山:…。
神代:どうしたんだい?さっきまで威勢が良かったのに。納得してくれたのだろうか?
小宮山:…納得できるわけがない。でも、ただ感情のままに喚き散らしてもダメだ。先輩からいつもそう言われている。だから必死に自分の中で今飲み込もうとしてるんだ。先に言いたいことがあるなら全部言え。話はそれからだ。
神代:なるほど。私はね、医学の進歩とは数多の屍の上に成り立っていると思っているんだ。確かに私のやっていることは、倫理に反しているのかもしれない。そういう自覚はある。だが、未来100万の命を救うために、彼女やこれまで犠牲になった人々の死が仕方のないこと、必要なことなのであれば、それは有効活用せねば。そのために私はここにいる。
石川:ご立派だと思いますよ。
神代:…どこか含みがあるように聞こえるが。
石川:いえ。納得していますよ。
神代:…そうか。彼女もしかり、君にも申し訳ないとは思っているんだ。
石川:…申し訳ない?
神代:ああ。君のご両親も救えなかったのだから。
石川:つまり私の父も、同じ病気だったと?
神代:そうだ。君の父親は私の部下だった。この病の治療法を探すために共に研究に励む仲間だった。しかし君の父もこの病を発症してね。
石川:では母は?
神代:君の母を殺したのは、君の父だ。
石川:それを、あなたが止めてくださった。
神代:そうだ。
石川:父を殺すことで?
神代:それしか手段がなかった。研究に没頭していたせいで、部下の変化に気付けなかった私の落ち目ではある。急いで駆けつけた時には、すでに君の母は君の父によって息絶えていた。残された君を私は保護し、事実は闇に葬った。
小宮山:…一つ聞いてもいいですか?
神代:ああ。
小宮山:僕の子供の頃の病は、今回の件と関係があるんですか?
神代:何の関係もない。君の病気は運良く薬の開発ができたから治った。それだけだ。ただ、君自身も病気によって犠牲になったたくさんの人々の屍の上に立っている。医学の進歩というものはそういうものだ。
小宮山:…きっとそうなんでしょう。
神代:君と同じ病気で亡くなったたくさんの人のおかげで、君はそこにいるんだよ。
小宮山:…。
神代:そして私は数十年とかけて、ただそれを繰り返しているだけだ。
小宮山:…病気の治療にサンプルが必要だと言うのなら、なぜ遺体を燃やしたりしたんですか。
神代:井本くんか。彼は最終的にあの薬のことを信用できなかったようだ。我々から隠れるようにあの廃工場に逃れ、最終的には自ら自分自身に火をつけて死んだらしい。
石川:その辺りは、黒川が手を回していたんですか?何かあった時のために。
神代:ああ、そうだな。
石川:それで神代さん。あなたはなぜ我々にあなたを調べさせ、この行いを見せているんですか?いったいどんな赦しが欲しいんですか?
神代:…赦し?赦しなど、欲しいとは思ってはいない。私たちの願いはこの病気の治療だけだ。そして、そのためには一人でも多くの手助けが必要なんだ。
石川:協力者が欲しいと?
神代:そう。この病気に関しては不確実な情報が多い。だからこそ、そう簡単に世間に公表はできない。それは分かるだろう?
石川:ええ。こんなことを知ったらパニックだ。
神代:だからこそ人材は貴重だ。黒川くんのように、私たちの手足となって“怪異”についての調査をする人間が必要なんだ。
石川:…そうですか。
神代:だから私たちと一緒に来ないか。それを伝えるためにここまで来てもらった。君たちのここまで辿り着いた忍耐力や精神力・そしてその行動力は賞賛に値する。私たちと共に、この“怪異”と立ち向かわないか。
DL:そう神代は言います。この最終的な結論は話し合いで決めることは出来ません。DLに個別でチャットを送って回答してください。
小宮山:なぜ僕らだったんです?たまたま?
神代:そうだな。たまたまと言う他ないだろう。しかしまあ一つ言うのであれば、彼女がそれを望んだのかもしれないな。彼女は彼女で、自らの意思でここにいるのだから。
小宮山:…マコさんは、もう死んだってことなんですか?
神代:まあ生物学上は死んでいるだろう。ただこの状態を死んでいると取るのかどうかは人によるがね。彼女は自分が助からないと知って、自ら検体として体を提供してくれているんだ。彼女は彼女なりの覚悟を持ってここにいる。
小宮山:…。
選択
ついに神代の下へ辿り着いた二人。そこですべての真相を知ることとなる。
そして神代は、選択を迫る。神代と共にこの病気の治療のために“怪異”と立ち向かうのか。それともその手を振り払い、これまでの日常へと戻るのか。少しの時間をおいて、それぞれは答えを出した。
答えが揃った次の瞬間、小宮山の部屋の扉が開いた。
黒川:ようこそ、公安へ。君を歓迎しよう。
小宮山:…一人でも多く救いたい。
黒川:そうだな。君のその覚悟を私たちは受け入れよう。だがその前に、これが最初の仕事だ。
黒川は小宮山に一つだけボタンのついたリモコンを渡してくる。
小宮山:…これは?
黒川:このボタンを押せば、石川くんの部屋に睡眠ガスが噴霧される。君の覚悟が本物なら、それをここで示して欲しい。おそらく彼とは二度と会うことはないだろうから。何か伝えたいことがあるのなら、今彼に伝えるといい。
小宮山:…一応確認するけど、これただの睡眠ガスなんだよな。
黒川:ああ、信用していい。もしボタンを押した後、石川くんの身に何かが起きれば私の腕を差し出してもいい。私は仲間を裏切るような真似はしない。
小宮山:…分かった。そん時は腕と言わずあんたの命を貰う。
小宮山:…先輩。
石川:なんだ。
小宮山:ご指導ご鞭撻いただき、ありがとうございました。
石川:行くのか。
小宮山:ええ。
石川:神代は人殺しだぞ。
小宮山:…ですね。
石川:俺は刑事だ。どんな事情であれ、俺の父を殺した。それは白日の下に晒さなければならない。結果無罪になろうとも。
小宮山:その通りだと思います。
石川:まあ、お前には関係のない話だな。
小宮山:そうですね。
石川:好きにするがいい。
小宮山:先輩には先輩の正義があるし、僕には僕なりの正義があります。
石川:いっぱしに正義を語るようになったか。
小宮山:正直分かってないです。でも、もうマコさんと同じような目に遭う人を見たくないんです。
石川:それはそうだ。
小宮山:うん。きっと先輩の方が正義だなって、僕は思います。
石川:俺は別に自分のこれを正義と思ったことはない。仕事だ。
小宮山:先輩らしいです。でも、だから思うんです。せめて後悔はしないように。振り向いたりしません。
石川:お前は言葉が多すぎる。
小宮山:先輩が少なすぎなんですよ。
石川:うん。
小宮山:ありがとうございました。お元気で。
石川:ああ、小宮山もな。
小宮山:押します。
DL:では、小宮山がボタンを押すと、石川の部屋に睡眠ガスが噴霧されます。
次に石川、あなたが目を覚ました時、そこは自宅のベッドの上でした。事件のこと、マコのこと、神代のこと、そして小宮山のこと。すべて覚えているでしょう。正義とは?そんな言葉が頭をよぎったかもしれません。それでもまた、これまで通りの日常へとあなたは戻っていくのでしょう。
そして小宮山。あなたは石川の無事を確認した後、これまでとまったく違う日常へと歩んでいくことになるのでしょう。いつの日か、あの病を治療できる日が来ることを願って。
Two Side of the Same COIN.
───我々は皆、同じ正義を見ている。
エモクロアTRPG『COIN』end.